和歌山県岩出市を拠点に、不動産と注文住宅を手がける紀北地所。
現在は、高気密・高断熱、高耐震といった住宅性能を重視した家づくりを行っていますが、もともとは建築を行う会社ではありませんでした。
父と姉の二人で営んでいた町の不動産屋から、自社で建築を手がける会社へ。さらに2026年には、新たな注文住宅ブランド「Val Design Works」を立ち上げました。
その中心にいるのが、代表の山本さんです。
住宅業界に入る以前はモータースポーツの世界に身を置き、その後、住宅業界で営業や現場を経験。そこで得た経験や職人とのつながりを持って紀北地所へ戻り、ゼロに近い状態から建築事業を立ち上げました。
紀北地所はこれまで、どのように家づくりを変えてきたのか。そして、新ブランドでこれから何を目指すのか。
山本さんに話を聞きました。
もともとは、父と姉が営む町の不動産屋
紀北地所は、もともと父と姉の二人で営む地域の不動産会社でした。
主な事業は、不動産仲介と土地開発。土地をつくって販売し、新築を希望するお客様がいれば知り合いの工務店を紹介する。建築そのものは自社では行っていませんでした。
その紀北地所に山本さんが戻り、建築事業を始めます。
住宅業界で働いていた頃、営業だけでなく現場にも足を運び、職人との関係も築いてきました。その経験を生かし、大工、電気、設備、内装など、それぞれ「この人なら任せたい」と思える職人に自ら声をかけ、自社で住宅をつくる体制を整えていきました。
「しんどかったら言うてよ、と声をかけてくれていた職人さんもいたので、戻ってから意外とすぐに人が集まってくれました」
材料やプレカットの仕入れ先とも一から取引を始め、不動産だけでなく土地と建物を一緒に提供できる会社へ。
当時はまだホームページもなく、現在とはまったく違う状態から建築事業が始まりました。
設備へのこだわりから、住宅性能へ
建築事業を始めた当初、紀北地所が力を入れていたのは住宅設備や内装材でした。
キッチンなどの水まわりやフローリングに良いものを採用し、他社ではオプションになるような仕様を標準で取り入れることもありました。
そこから家づくりに対する考え方を大きく変えたのが、住宅の「暑さ・寒さ」でした。
きっかけは、あるお客様から「吹付断熱を採用したい」と相談されたこと。
実際に施工した住宅を冬に訪れたとき、それまで自分たちが建てていた住宅との違いを感じたといいます。
「暖かかったんです。それで、ちょっと待てよと思って。そこから断熱の勉強を始めました」
吹付ウレタン、セルロースファイバーなど、さまざまな方法を試しました。
しかし、断熱材だけを良くしても十分ではないことに気づきます。
断熱性能を高めても、隙間が多ければ熱は逃げる。気密を高めれば、次は換気についても考えなければならない。
断熱、気密、換気。
試行錯誤を重ねた結果、現在採用しているスーパーウォール工法にたどり着きました。
導入後、お客様から聞く言葉も変わったといいます。
「快適とか、省エネとか。実際に住んでもらったお客様の声が全然違いました」
そこから紀北地所では、住宅性能を家づくりのベースとして考えるようになりました。
「いい家」は、資産価値として残る家
紀北地所にとって、いい家とはどんな家なのか。
山本さんの答えは「資産価値として残せる家」でした。
ここでいう資産価値は、単純な売却価格だけを指しているわけではありません。
安心、安全、快適、健康に暮らせること。そして、自分たちの好きなものに囲まれ、家に帰ったときに安らげること。
さらに、自分たちの世代だけで終わるのではなく、次の世代にも引き継いでいけること。
それらを含めて「価値のある家」と考えています。
この考え方は、紀北地所が掲げる「住宅の常識を変える」という言葉にもつながっています。
「日本の住宅は、建てたときをピークにして、そこから価値がどんどん下がっていくという考え方がある。でも、20年、30年、40年先まで考えた家づくりをしないといけないと思っています」
今だけ快適であればいいのではなく、将来の気候や暮らしまで考えて家をつくる。
和歌山は温暖な地域と思われがちですが、冬は寒く、夏は暑い。さらに今後は、夏の暑さへの対策がより重要になると山本さんは考えています。
今の気候だけに合わせるのではなく、この先も快適に暮らせる家をつくる。
そのためには、住宅会社側も同じものをつくり続けるのではなく、新しい技術や考え方を学び、良いものを取り入れ続ける必要があります。
お客様とは「人生を共にする」
家づくりで、お客様との関係について最も大切にしていることを聞くと、山本さんから返ってきたのは「人生を共にする」という言葉でした。
「建てた後の付き合いの方が長いですから。その人の人生を背負うというと大げさかもしれないけど、それぐらいの気持ちは持ってやっています」
だからこそ、契約することだけを目的にはしていません。
価格だけで比較するのではなく、お客様と住宅会社がお互いに納得したうえで、一緒に家づくりを進められるかどうかを大切にしています。
「お客様にも会社を選ぶ権利があるし、僕らにもある。どの会社でやるかも大事ですけど、誰とやるかもすごく大切だと思います」
実際、紀北地所には長く付き合いが続いているOB客が多くいます。
以前、紀北地所で建てた家に小学生として暮らしていた子どもが大人になり、結婚し、今度は自分の家を紀北地所へ依頼する。
結婚式に呼ばれたり、地元で買い物をしていると声をかけられたりすることもあります。
家を引き渡した時点が、お客様との関係の終わりではない。
地域で仕事をしているからこそ、その後の人生でも付き合いが続いていきます。
地域工務店だからできる「よろず屋」
大手ハウスメーカーをはじめ、さまざまな住宅会社が地域へ進出する中、地域工務店だからこそできることは何なのか。
山本さんは「よろず屋」「地域の相談所」と表現します。
紀北地所が対応するのは、新築だけではありません。
土地の購入や売却、建物の売却、賃貸、リフォーム、相続など、住まいや不動産に関する幅広い相談に対応できます。
OB客本人だけでなく、その親や子ども、親戚から相談を受けることもあります。
「何かあったら、とりあえず聞いてみようと思ってもらえる会社でいたい」
これは、不動産会社として始まり、そこから建築まで手がけるようになった紀北地所だからこそできることでもあります。
大手企業のような知名度はなくても、地域にいるからすぐに動ける。小回りが利く。住まいだけでなく、その後に起こるさまざまな相談にも対応できる。
山本さんは、そこに地域の会社としての役割があると考えています。
建築をもっと知ってもらうために生まれた「Val Design Works」
2026年、紀北地所は新しい注文住宅ブランド「Val Design Works」を立ち上げました。
その理由について山本さんは、まずこう話します。
「建築をもっとメジャーにしたかったんです」
「紀北地所」という社名から、不動産会社をイメージする人は少なくありません。
実際、不動産事業は現在も重要な事業ですが、一方で紀北地所は長年にわたって注文住宅を手がけ、住宅性能や設計、施工体制を磨いてきました。
それでも、「紀北地所=建築」という認識は十分に広がっていなかったといいます。
そこで、不動産事業を担う紀北地所と、注文住宅を担うブランドを分けることにしました。
それがVal Design Worksです。
ブランド名の「Val」はValue、つまり価値。
「暮らしの価値をデザインする」という考えが込められています。
住宅性能だけではなく、安心して暮らせること、快適であること、自分の好きなものに囲まれて暮らせること。
紀北地所がこれまで考えてきた「資産価値として残る家」を、より暮らしの視点から表現したブランドでもあります。
モータースポーツで見てきた「ワークスチーム」を家づくりへ
「Val Design Works」の“Works”には、山本さん自身の原点も関係しています。
山本さんは住宅業界に入る以前、モータースポーツの世界にいました。
そこで身近にあったのが「ワークスチーム」という存在です。
メーカーを代表するトップレベルの技術者や、それぞれの分野のスペシャリストが集まり、一台のマシンをつくり上げていく。
その後、住宅業界に入り、営業や現場を経験。紀北地所へ戻ってからも、自ら大工や電気、設備、内装などの職人に声をかけ、自分が信頼できる人たちと家づくりのチームをつくってきました。
「一個一個はすごいパーツなんです。それが積み重なって、全部噛み合ったときに、すごいものになる」
家づくりも同じです。
大工、設計、現場、設備など、それぞれの分野で力を持つ人が集まり、その力がうまく噛み合うことで一つの家が完成する。
Val Design Worksの「Works」には、モータースポーツの世界で山本さんが見てきた、プロフェッショナルが集まるワークスチームの考え方が重なっています。
現在は、そこに社員や新しいメンバーも加わり、少しずつチームとしての形ができ始めています。
20年経って、「ここからがスタート」
山本さんが紀北地所へ戻った当時、自社で建築する体制はありませんでした。
資金面でも苦労し、まずは目の前の課題を一つずつクリアすることに精一杯だったと振り返ります。
そこから約20年。
建築事業をつくり、住宅性能を高め、職人や社員のチームをつくり、新しい事務所も完成しました。
「20年前は、ここまでになるとは思ってなかったですね。未来を見る前に、まず目の前のことを頑張ってクリアしていく感じでした」
現在は会社としての方向性も見え、新しいブランドもスタートしました。
これから紀北地所が目指しているのは、20年、30年、40年と地域に残り続ける会社です。
住宅だけに限定するのではなく、不動産や建築を通じて地域に必要とされることに取り組んでいく。
将来的には、住まいだけでなく地域の人が集まる場所や、まちづくりにつながる取り組みについても構想しています。
目指すのは、「岩出市で何か困ったことがあれば、まず紀北地所に相談してみよう」と思ってもらえる存在です。
新しい事務所について話しているとき、山本さんはこう話しました。
「やっとスタート。ここからですね」
自分の言葉に責任を持つ
最後に、家づくりに携わる立場として大切にしていることを聞きました。
山本さんが挙げたのは、お客様の「覚悟」を受け止めることです。
住宅は、多くの人にとって人生で最も大きな買い物の一つです。
お客様が大きな覚悟を持って住宅会社に託している以上、つくる側もその気持ちを受け止めなければならない。
そして、そのために大切なのが「言葉」だといいます。
「自分の言葉に責任を持って、言葉に思いを乗せることですね」
山本さんが好きなのは「言霊」という言葉です。
こうなりたい。
これをやりたい。
こういう会社にしたい。
自分の中だけで考えるのではなく、言葉にして周囲へ伝える。山本さん自身、そうやってこれまでいくつもの目標を実現してきました。
今回完成した新しい事務所も、その一つです。
町の不動産屋から、自社で家をつくる会社へ。
住宅性能を追求しながら、お客様との長い関係をつくり、地域の相談所としての役割を広げてきた紀北地所。
そして今、新たにVal Design Worksが始まりました。
約20年をかけてつくってきた土台の上で、これからどんな家づくり、そしてどんな地域との関わりをつくっていくのか。
紀北地所にとって、新しい20年が始まっています。
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